中村 利江氏>業務提携で “夢の街づくり”、 大阪の街でも始動。

宅配ポータルサイト「出前館」を運営する夢の街創造委員会。創業間もなく同社の二代目に就任し、4年で株式を上場させた中村利江代表に、業務提携を戦略的に活用してサービスの拡充を進めてきた理由、基幹事業の出前館を軸にした〝夢の街づくり〟について語ってもらった。

新聞配達員が届ける 新聞以外の商品とは?

新聞配達の仕事は文字どおり新聞を配ること。しかし2017年3月、朝日新聞販売所(ASA)が近隣の飲食店から出前の食事を受け取り、注文者に届けるサービスを始めた。 「新聞配達員が出前を宅配?」――驚く人が多いはずだ。これはインターネットで出前の注文を受け付ける「出前館」を運営する夢の街創造員会株式会社と、朝日新聞社の業務提携によって実現した新サービス。 出前館は会員数881万人(2017年2月末時点)、加盟店数1万4669店舗(2017年3月末時点)を有する日本最大級の宅配ポータルサイトで、サイトに訪れるユーザーはピザや弁当、和洋中、エスニック、カレー、ハンバーガー、デザートなど、多数のジャンルの出前サービス店舗から好きな商品を注文できる。出前館を通じた年間の注文数は1565万件超、金額に換算すると約400億円にのぼる。まさに〝出前のインフラ〟といえよう。 そんな出前館は、後述のように業務提携を戦略的に活用してサービスの拡充に努めてきた。朝日新聞社との業務提携もその一環で、ASAとの協業1号店として、神奈川県相模原市の有限会社イワサキ(ASA)が運営する「デリバリーイワサキ」がオープンした。 デリバリーイワサキは出前館から注文情報が入ると、近隣の飲食店に商品を受け取りに行き、その足でユーザーに届ける。この仕組みを夢の街では「シェアリングデリバリーモデル」と呼ぶ。デリバリー機能を持たない飲食店の配達代行を、ASAと協力して行うモデルである。

既成概念を破って見出した 新聞販売店の新たな可能性

 

新聞販売店が出前を代行するというこの発想。一体、どのようにして生まれたのか。夢の街の中村利江社長は、「提携先の課題解決を模索する中でたどり着いた」と説明する。 「ASA様は地域密着の経営を大切にされていて、配達用のバイクを所有されているのはもちろん、配達員の皆さんは地理を熟知されています。宅配ビジネスに必須の強みを持たれているわけですが、新聞の購読者数が減少し、物量の低下に悩みを抱えておられる。その課題を出前館が解決する、つまり私たちが物量を確保しましょうというのが、業務提携の交渉のスタートでした」 物量低下を解決する。そう自信を持って提案できる背景には、日本最大級のデータベースがある。 「1万4000店舗以上の出前データと880万人以上の会員データを掛け合わせることで、出前を利用したいユーザーが各エリアに何人くらいいるのかが分かります。そのため、どのエリアでシェアリングデリバリーをやると何件くらいの注文が入るのか、どの程度の売上と利益を見込めるのかが事前に把握できるのです」 新規ビジネスを始める際は収支計画を立て、採算ベースに乗るかどうかを事前に見極めなければならない。その数字予測を出前館のデータベースをもとに弾き出せるため、ASAはリスクを抑えて新規ビジネスに参入し、初年度から一定の利益を見込めるのだ。事実、前述のデリバリーイワサキは、すでに当初の予測を大幅に上回る実績を上げているという。 「新聞を配るという従来の枠内で新聞販売店のビジネスを見ると厳しいかもしれませんが、〝宅配ビジネスに強みを持つ会社〟と視点を変えると配達物の縛りがなくなります。出前館との協業で既成概念を破ることで、新聞販売店の新たな可能性が見出されたといえます」 もちろんASA側にのみメリットがあるわけではない。出前館にとってはデリバリー機能を持たない飲食店の宅配をASAが代行することで加盟店が増え、出前注文の受け皿が広がる。その結果、地域のユーザーにとっては出前サービスの選択肢が増えることにつながる。シェアリングデリバリーモデルはASA、ユーザー、出前館にとって三方良しの仕組みなのだ。

顧客双方のメリットを追求し、 確立したビジネスモデル

夢の街創造委員会の設立は1999年。出前館は翌00年にオープンした。出前館のビジネスモデルは前例がなく、当初は伸び悩んだが、02年に中村社長が経営を継いでから飛躍することになる。 「当社の社名が意味するように、〝あったらいいな〟という〝夢の街〟をつくるための事業の第1号が出前館です。出前館を軸に社名を体現する事業を継続・発展させるためにはどうすればいいかを常に考え、ユーザー様と加盟店様の双方に喜んでいただけるサービスを追求してきました」 中村社長がそう力を込める出前館のビジネスモデルを、顧客であるユーザーと加盟店の双方の視点で改めて見ていきたい。 「まずユーザー様の利点は大別すると2つです。1つは郵便番号を入力するだけで出前可能な店舗一覧を確認できる検索性の良さ、そしてもう1つは〝いま頼むと何分後に受け取れるか〟という待ち時間が分かる点です。ほかにもポイントが貯まるといった様々なメリットがありますが、こうした便利なサービスを一つでも多く提供するとともに、営業力を強化して加盟店をさらに増やすのが私たちのミッションです」 一方の加盟店のメリットは主に3つ。1つ目は新たな売上をつくれる点で、チラシを見ない顧客層の注文を掘り起こせる利点がある。 「次に2つ目は販促コストの削減です。出前業界におけるチラシの反応率は0・6%程度と言われている一方、売上に対するチラシのコストは平均13~14%も占めています。それに対して出前館のコストは売上に対して5%程度と低く、チラシより低コストで高い効果が期待できるのです」 あるデリバリー系チェーンの場合、出前注文の9割をチラシに頼っていた従来は営業利益率が約4%だった。ところがチラシの発行をストップし、出前館経由のオーダーが8割に達した頃には営業利益率が20%を超えたという。 「つまり販促コストの構造転換に成功したのです。小手先の対策ではなく、販促の方法そのものを見直すことで、これだけの成果が見込めるわけです」 最後の3つ目はオペレーションの効率化。慢性的な人手不足に悩む飲食店にとって、出前の注文を電話で受けて処理する負担は小さくない。その点、出前館に登録すれば注文情報をFAXや伝票といった紙ベースで確認できるため、電話処理の手間を省くことができるのだ。 「さらに食事の出前はキャッシュオンデリバリーが一般的ですが、出前館はクレジット決済やオンライン決済の導入を進めているため、宅配時に金銭のやり取りが発生しません。釣銭を用意する手間もなく、宅配業務を効率化できる点も加盟店様に喜ばれている理由のひとつですね」喜ばれている理由のひとつですね」 このように顧客双方のメリットを追求してきた結果、中村社長が経営を継いだ3年後の05年に創業以来初の黒字化を達成し、翌06年6月に大阪証券取引所ヘラクレス市場に株式上場。直近17期(2015年9月~2016年8月)の売上高は41億5000万円に達した。

Win-Winの関係提示と ビジョンの共有が決め手

ユーザーと加盟店にとって価値の高いサービスを提供するため、同社では業務提携や協業を積極的に行ってきた。 朝日新聞社との事例以外に、一例をあげると次のとおり。(表1) 出前館がオープンしてから現在に至るまでの間に、ユーザーがオーダーする際の入口はパソコンからモバイル、インターネットテレビなどに広がり、決済方法も多様化してきた。同社は様々な企業と連携を図ることで、新たなデバイスや決済に対応してきたのだ。 業務提携を進めるためには、第一に相応の企業を見つけなければならない。どのような基準で提携先を選定しているのかと問うと、「業界最大手と提携する、これに尽きますね。出前館はデリバリーのトッププレーヤーを自負していますから、今後もトップ企業以外と組むつもりはありません」ときっぱり。 しかし、トップ同士の交渉は一筋縄ではいかないはず。交渉成立のポイントは何か。 「それはWin-Winの関係とビジョンを明確に示すことです。提携に限らず、双方の利益を求めるのはビジネスの大前提です。そのうえで、いかに自社のビジョンを相手に伝え、共感していただくかが大事です」 出前館は、16年10月にサービスを開始したApple Payにいち早く対応すると共に、同年末にはCMを制作・放映することで、iPhoneを使った新しい決済の方法で出前館の注文を楽しめることを広くアピールした。 「オンライン決済を早期に導入してキャッシュオンデリバリーという出前業界の常識をひっくり返してきた私たちは、Apple Payに対応することで、iPhoneなどの指紋認証で注文できる新しいデリバリーの世界を生み出しました。今後も最新のテクノロジーやサービスをいち早く取り入れながら、新たな〝夢の街〟を創造したいと考えています」

大阪人の〝値切り根性〟を 事業の構造転換に活かせ

冒頭で紹介したASAとの協業店舗は今後、大阪を始め関西でも展開していく予定だ。大阪に本社を置いて事業を続けてきた同社は、地元大阪の経済をどう見ているのだろう。 「よく言われることですが、大阪には値切りが商習慣として根づいていますよね。コスト意識が高いという意味では大切なことですが、コストを単に切り詰めるだけの経営に飛躍はありません。大阪人の〝値切り根性〟をコスト構造や事業構造の転換に活かすことができれば、大阪の街はもっと活気づくと思いますよ」 そんな同社では、大阪府が推進している「働き方改革」に以前から力を入れてきた。子どもの諸事情で休みを取れる「子の看護休暇」、一時保育などを利用した際の料金を会社が負担する「子育て費用補助制度」など、働くママ・パパの悩みに応える制度を充実させている。 「これは私の経験が原点になっています。私自身が育児と仕事の両立で苦労してきたので、自分に置き換えて〝社内にあったらいいな〟と思う制度を整えたのです。育児や親の介護など、様々なライフステージを迎えた社員が能力を発揮し続けられる、そんな組織づくりを目指していきます」 中村社長が二代目に就任して以降、急成長を続けてきた同社。その勢いは衰え知らずで、毎年25%以上の成長を続けている。 「今後も成長率を維持し、地域に密着しながら街で暮らす人びとの生活をさらに便利にするとともに、事業者の皆さんの商売繁盛に貢献していきたいですね」

■出前館の公式ページ
https://demae-can.com/

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