岸本 信弘氏>信念貫く、30年目のベンチャー企業 磨き続けた技術でIPOへ、そして世界へ。

 

クルマやドローンの自動運転の実用化などに欠かせない高精度・高感度の測位システムで世界の先頭を走り続けている尼崎の企業、マゼランシステムズジャパン。技術志向を貫き、創業30年目を迎えた今IPOを視野に入れる。同社社長の岸本信弘氏と、同社を支えてきた弁護士の五島洋氏が、これまでの同社の歴史と、あるべきベンチャー企業像について語り合った。

他を圧倒する技術力 1センチ以内の誤差で位置を測定

─まずマゼランシステムズジャパン(以下MSJ)の事業内容と技術の強みについて教えてください。

岸本 GNSS(Global Navigation Satellite System/全球測位衛星システム)を活用して位置情報を正確に測定するシステムを開発しています。GNSSの元祖は航空・船舶用に打ち上げられたアメリカのGPSですが、現在ではロシアがGLONASS、ヨーロッパがGalileo、日本がみちびきによる衛星システムを構築しており、他に中国・インドが独自の衛星測位システムを開発しています。これらを総称してGNSSと呼んでいます。 3つ以上の衛星からの距離を同時に測定し、その交点を求めることによって自分の位置を決めるのですが、当社システムの特徴はGNSSすべての衛星を使って計算を処理しているところです。これによってより正確に測位することができ、死角も少なくなります。また通常、衛星からの信号の一目盛りはおおよそ300メートルで、これが衛星との距離を測る物差しとなります。当社は信号を運ぶ搬送波(波長約19センチメートル)を使うことでより高精度の位置測定を可能にしています。

─最新の開発ではどこまでできるようになっているのでしょうか。

岸本 自分の位置を誤差1センチ以内で特定することができるようになりました。この精度で、世界の先頭を走っています。また実用化のため導入費用の低減にも取り組んでいます。このシステムは通常、衛星からの信号を受け誤差情報とともに移動体(車や携帯電話)に送る基地局と、移動体につけるアンテナ、受信機が必要なのですが、最新の開発ではアンテナと受信機だけでシステムを構成し、1システムの導入費用を従来の約100万円から10万円程度に抑える目途がつきました。この最新のシステムは、10月に開かれたIT技術とエレクトロニクスに関するアジア最大級の展示会「CEATEC JAPAN 2017」のアワードにおいて総務大臣賞を受賞することができました。

これらの技術によって現在実用化が進められている分野の1つが農業用トラクターの自動化です。トラクターが自分の位置情報を正確に把握することで、自動(無人)で種や肥料をまくことができるようになります。農業分野が抱える人手不足の課題解決につながるほか、種をまいた位置に正確に肥料を与えることで無駄遣いを抑えることができます。現在農機メーカー大手2社で採用され、すでに量産化が始まっています。建設機械への搭載も進みつつあり、クレーン同士の衝突などの事故が防げるようになります。

技術こそ資産 エンジニアこそ宝物

─お二人の出会いは。

五島 15年ほど前、ベンチャー企業が事業をプレゼンする場がきっかけとなって岸本社長と知り合いました。当時のMSJは資金繰りで非常に苦しんでいた時期でしたので、もし経営が行き詰ったとしても法律を活用し、技術資産を新会社に引き継いで再生する方法があることをまず伝えました。そして、お金のことは気にすることなく何度でも相談に来てくださいと伝えました。

岸本 一つのテーマの開発には5年を要し、15億円の資金が必要です。ただ最大のリスクは開発したものがその時点で市場に受け入れられるかどうかです。五島先生と出会う少し前に、大手電機メーカーの携帯電話に当社のシステムを採用いただけるということで話が進んでいたのですが途中で頓挫しました。そんなこともあり資金繰りが苦しくなっていき、五島先生と出会った頃には消費者金融会社からでさえお金が借りられず、明日のご飯も心配しなければならないほど困窮していました。五島先生から、万が一、行き詰ったとしても技術資産を継承したまま事業を継続できる方法があることを知り、大変有難く思いました。まだ崖っぷちではないんだと、専門家に相談する意義を痛感しました。当社にとって技術こそが生命線ですから。その後、高精度のシステムを開発することができたことで、ある事業会社から開発テーマと資金を得ることができ、何とか持ちこたえることができました。

─五島弁護士は、ベンチャー経営者としての岸本社長をどのように見ておられますか。

五島 ベンチャー企業は非常に厳しい時期を乗り越えるために、当初考えていた事業の理念を曲げてでも存続するための道を選び、だんだんと扱う商材が変わったり、事業内容が変わっていったりすることが多いものです。ところが岸本社長は30年間ひたすら同じ技術を深く掘り下げ、ぶれることなく磨きをかけ続けてきました。創業から30年経った今なお技術ベンチャーと言い切れる会社はそうあるものではありません。しかもこれだけ厳しい時期を経ながら、コアになるエンジニアがずっと働き続けていることもすごいことです。

岸本 会社にとっては技術が資産であり、エンジニアは宝物です。私はずっとGNSSシステムの開発において、世界一の精度、世界一の受信感度を目指そうという旗印を掲げ、その結果アメリカの大手メーカーに採用されるなどしてきました。日本に10人、モスクワに10人のエンジニアがいますが、途中で給料を下げざるを得ないようなときでも辞めるエンジニアはいませんでした。世界一を目指す開発に携われることにモチベーションを感じて働いてくれているエンジニアたちばかりだからです。つい先日もモスクワで勤務するエンジニアのリーダーが「人生の中で今取り組んでいる開発が一番楽しい」と言ってくれました。

─五島弁護士の支援も時間の経過とともに変わっていったのでしょうか。

五島 事業が上向きになるにつれ相談、支援する内容も変わっていきました。大手メーカーとの契約の話が徐々に増えていったので、その際には岸本社長に同行し、岸本社長が技術面について、そして私からは知的財産保護の観点で説明を行いました。提携する大手メーカー、また販売をお願いする代理店との契約書の作成、また前向きな資金を獲得するための契約やそのための手続きなど、事業を前に進めていくための本来のサポートが増えています。 岸本 知的財産を保護した上での契約をご指導いただけたことは非常に助かりました。資金繰りが苦しい時はなりふりかまわず特許を手放してでも開発作業を継続しなければならなかったときもありましたので。

成長ステージに踏み出し さらに技術を磨く

─現在はIPOを視野に入れているということですが。

岸本 資金さえあればより大胆な開発に取り組むことができるので、IPOでまとまった資金を調達できないだろうかということは常々考えていました。日本の測位衛星、みちびきの4機目が今年10月に打ち上げられ、その運用が2018年4月から始まるので、当社のシステムを使ってまさに1センチ誤差以内の測位ができるようになります。超高精度、感度の技術開発が市場に受け入れられるタイミングと重なり、ようやく成長ステージに踏みだすことができると考えています。2018年末のIPOを目指して現在準備を進めているところです。現在、競合他社に比べて2年ほど技術力が先行していると自負していますが、IPOによる資金調達でさらに磨きをかけられると思っています。

五島 MSJが開発に取り組んでいるGNSSを使った測位システムは、社会のインフラとして求められている技術であり、その技術に対して広くお金を集めてさらに素晴らしい技術へと進化させていく必要があります。まさにIPOという選択に合理性があり、またサポートできることにとても意義を感じています。今後はIPOに向け、これまでベンチャー企業ゆえに結ばざるを得なかった契約条件などを見直して、再契約するなど、将来発生するリスクを合理的に排除するための支援に力を入れているところです。

─この30年間、信念を曲げることなくやってこられたのはなぜですか。

岸本 願っていることは必ずかなうものだと信じて生きていれば、いつかチャンスはやってくるものだと思っています。そして何より五島先生を含め周囲の皆さんに助けていただくことができたから続けてこられました。説明する時にいつもお伝えしてきたのは、当社の技術で実現できる世界を説明し、一緒に夢に共感していただくことでした。税務署に滞納のお願いをせざるを得なかった時でも、最後には「がんばってくださいね」と逆に励ましていただけるほどでした。当然、毎月のように事業の進捗状況を報告し、お金が入ったタイミングですぐに支払いを済ませてきました。

五島 厳しい状況に陥っているとしても、この会社にはがんばってもらい、待ったほうが正しいと思ってもらえるくらい、熱意を持って説明し、常に逃げずに真摯に相手に向き合うことができるか。それができるのが岸本社長です。多くのベンチャー経営者に見習ってほしい姿勢です。

数年後にはVtoXで 交通事故のない世界を実現

─IPO後に描く事業の方向性についてお聞かせください。

岸本 現在、誤差1センチ以内の精度で測位できるシステムの受信機の大きさが長さ20センチ、幅10センチ、高さ10センチほどあるのですが、1年後にはこれを名刺の半分くらいの大きさまで縮小し、さらにIPOで調達した資金を活用して、1センチ角のチップに収めたいと考えています。それを1つ1000円くらいまで抑えようと考えています。  そうなると一気に普及が進むでしょう。そこまで小さくなると何ができるかというとVtoX(Vehicle to everything)といって、クルマとクルマを取り巻くトラフィック全てのものにチップを取り付ける世界が実現します。例えば、自転車に乗っている人や子どもが近づいてきたら自動的にクルマが止まるということも可能になるのです。また、ETCのようなゲートを設置しなくても、クルマのチップに蓄積した情報で有料道路のどこからどこまで走ったということが分かれば、料金も自動計算してくれるようになります。また、ドローンに装着すればドローン同士の衝突を回避することができ、ドローンの物流への活用も現実味を帯びてきます。さらに、無人航空機の衝突回避システムの研究開発も進めています。

五島 関西で起業しIPOした会社にはぜひ関西にとどまってさらに羽ばたいてほしいと思い支援を行っています。一つの技術にこだわり30年開発を続けてきた世界的なベンチャー企業が尼崎にあるということを発信し、起業家の道しるべになってほしいと期待しています。

岸本 これからも尼崎に拠点を置いて、世界のエンジニア、研究機関とグローバルにネットワークを結びながら研究開発を進めていきたいと思っています。

CEATEC AWARD 2017 総務大臣賞 受賞

次世代準天頂衛星対応 多周波マルチGNSS高精度受信機開発

製品概要/2018年に本格稼働する準天頂衛星(みちびき)のL6信号を受信し、高精度かつ単独測位可能なGNSS受信機2年を掛け実用化した多周波マルチGNSS対応評価ボードを元に、アナログ受信部(RF)をLSI化し、性能は維持しつつ、小型、軽量、省電力化を行う。これにより数センチ単位の高精度位置情報の活用をさらに普及させ、自動運転やV2X機能の社会実装をより高度かつ迅速に促進する。

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