他力野 淳 氏>施設再生の鍵は 人(組織)にあり。

バリューマネジメント株式会社 代表取締役 他力野 淳
大掛かりなリノベーションなしに、 「人(組織)」の力で歴史的建造物を再生するバリューマネジメント。 創業者で代表取締役の他力野淳氏に、組織づくりの秘訣を聞いた。

既存の資源を活かし 組織の力で再生する

鶴京都鴨川リゾート」」「神戸迎賓館 旧西尾邸」「大阪城西の丸庭園 大阪迎賓館」「篠山城下町ホテル NIPPONIA」。バリューマネジメント株式会社が再生してきた歴史的建造物の一例だ。 この日、取材の場となった「鮒鶴京都鴨川リゾート」も、もとは明治時代創業の老舗料亭旅館「鮒鶴」。かつては京都の粋人たちが集う料亭として、格式ある結婚式場として名を馳せた。しかしバブル崩壊後、経営危機に陥る。数々の貴重な歴史的資産が残る建物もあわや取り壊しかと思われたが、他力野氏が再生に手を挙げる。他力野氏は「鮒鶴」が持つ本来の趣を極力残しながら施設を再生。145年の歴史ある元老舗料亭旅館をウェディング、フレンチレストランの「鮒鶴京都鴨川リゾート」として蘇らせた。 不採算店舗の再生や遊休施設の再活用を望む企業や自治体は多い。それに伴いリノベーションを手がける企業も増えている。そんな中、バリューマネジメントは営業しなくてもオファーが入る。「それだけ社会的課題が大きいのでしょう」と他力野氏は謙虚だが、成果を出さない企業に話は持ち込まれない。手がけた物件の実績が目に見えるからオファーが絶えないのだ。 その要因は何なのか。他力野氏は「人(組織)」の力を挙げる。 「建物を大きくリノベートすれば確かに施設は生まれ変わりますが、正しく運用されなければ長続きしません。バリューマネジメントは24時間365日、高い次元で安定的にパフォーマンスを出せるプロフェッショナルな組織に重きをおいています」 建物本来の姿を可能な限り残し、人材も含めて既存の資源を最大限に活かす。ドラスティックな手段をとらないからこそ、そこで働く人たちの力がすべてというのが他力野氏の考えだ。FUNATSURU KYOTO KAMOGAWA RESORT

労働集約型に振り切る

神戸迎賓館 旧西尾邸力野氏は29歳で起業した。 「当時はITベンチャーの創生期。『いずれ人はいらなくなる』『人を雇わない経営がスマート』が常識になり始めていました。会社が大きくなっても残るのは経営者と事業だけ。人はどんどん入れ替わっていく。そこに強烈な違和感がありました」 自分はどんな組織をつくるのか。考え抜いた末に出した結論は「合理的な組織ではなく、労働集約型に振り切った組織」。人を切らない雇用にコミットして創業した。 バリューマネジメントのビジネスは施設のオーナーから運営を受託し、売上に連動して利益が上がる成果報酬型だ。再生させなければ共倒れ。しかし他力野氏は「成果報酬型でいいんです。そもそも成功するスキームとロジックで実践していますから結果は出ます」と言い切る。その自信は社内に伝播し、社員たちの強い自負につながっている。「収益は出て当然。しかしそこがゴールではなく、自分たちが入ることで施設が復活することがゴール」。その価値観がプライドを生み出し、組織の結束を強くしている。 だが、そうは言っても実践は厳しい。人を切らず最小限のリノベーションで、赤字を出したままの状態から人(組織)の力だけでじわじわと再生していく。他力野氏はその状態を「まるで鎖をつけて勝負しているようなもの」と例える。

学生たちの成長を 支援する採用

全社ミーティングの様子んな勝負に挑むバリューマネジメントの従業員数は*859名(うち正社員404名)。組織づくりのスタートは採用からだ。バリューマネジメントの正社員は新卒採用が大半。採用ではその人の価値観を重視している。 「仕事ができるかどうかというポテンシャルも大事ですが、何よりも私たちのような再生手法があっていい、そう思ってくれるかどうかを重視します。そしてそこにコミットする人たちが入社する。そうでないと大変だからです。人を切らずに再生するのはめちゃくちゃしんどい。マインドもスキルも高い次元になる。コミットが弱いと入社後になぜこんな大変なことをしなければならないのかと思ってしまうんです」 他力野氏は創業時からずっと、バリューマネジメントの目指すものを学生たちに語り続けてきた。会社説明会は少人数性。エントリー数が1万名に迫る今も一回あたりの人数は50名までと決めている。時間は約3時間半。それを何度も繰り返す。 「大人数でやったほうが楽ですが、それでは伝わらない。少人数だと学生の表情もわかるし、こちらの思いも伝わります」 もうひとつ、バリューマネジメントの採用には特徴がある。就活のプロセスを通じて学生の成長を支援することだ。他力野氏はこれを「成長する採用」と呼ぶ。 「日本の学生たちは残念ながら社会と切り離されています。就活が始まるまで社会とほとんど接点がない。それなのに就活期間は短期化し、その中でどこに行くのか決めなければならない。ならばそのプロセスを支援してやる。それが私たちの学生へのコミットです」 社会とは何か。社会に出たら何をするのか。それらを徹底的に教え、彼らを社会人の目線に引き上げる。そのためか合同企業説明会ではバリューマネジメントのブースに人だかりができる。 「成長すると学生たちの視点が上がります。そうすると私たちのやりたいことを本当の意味で理解してくれる。その時に彼らは自分で合うか合わないかを判断できる。合うと判断した人たちが入社すると強いパワーを発揮しますよ」 なかには「僕、(この会社とは)違いました」と辞退する学生も出てくる。そんな時は「正解が出たね、おめでとう」と送り出す。学生が自分にとっての正しい答えを自分で導き出したことが何よりうれしい。ひとりひとりに本気で向き合うので人事はへとへとに疲れる。しかし学生たちのバリューマネジメントへのロイヤリティは格段に上がる。

入社後の教育では 変えられない価値観

バリューマネジメント株式会社 代表取締役 他力野 淳長する採用」をやり続けるとどんなことが起こるのか。他力野氏は「入社後の教育では変えられない“心のピュアなやつ”を見つけられる」と話す。 バリューマネジメントには「ワン・トゥ・ワン マーケティング」という概念がある。お客様が本当に求めているものを丁寧に探り出し、もっともふさわしいタイミングで感動とサプライズを演出し、お客様の琴線に触れるセレモニーを提供するホスピタリティだ。お客様が百人いれば百通りのやり方を見つけ、社員はひとつひとつに自身のポテンシャルとスキルを100%注ぎ込む。 「こういうことが現場で自然に生まれてくる。なぜか。みんな“ええやつ”なんですよ。心がピュアなやつばかりだから、お客様のことを考えて率先してやるんです。これは本人の生まれ持った資質と親御さんの教育の賜物。入社後の教育ではできない。そんな学生に会えるかどうか、すべては採用にかかっています」 結婚式場やフレンチレストランという単価の高いビジネスは、一定水準のサービスにさらに付加価値が求められる。赤字からスタートする再生施設はなおさらだ。それぞれのお客様にもっともふさわしい感動を提供できるからこそ、人(組織)の力で赤字がじわじわ回復する。他力野氏は「実はこの人材こそが高い次元で安定的にパフォーマンスを出すバリューマネジメントのエンジン」だと話す。

高いパフォーマンスを 維持する人材教育の仕組み

篠山城下町ホテル NIPPONIAのようにバリューマネジメントの人材教育は既に採用段階から始まっている。入社後の教育は主にお客様の前に出るためのプロフェッショナルな知識とスキルを積むトレーニングだ。 特にスキルは再現性の高さを重視している。提供するサービスに必要なスキルを誰もがわかるように可視化して、再現性を細かく定義している。目標値に向かってロールプレイングを繰り返し、テストを受けて合格したら一段階クリアだ。足りないスキルは内容をチェックして上司と部下が共有する。それを3カ月単位で回していく。他力野氏が設計し、人事部がハンドリングして現場が動かす仕組みだ。 「うちはロープレ文化が浸透しています。練習してテストに合格した人だけが人前に出られる。社会人経験のある中途採用もテストに合格しなければ電話すら出られません」 人事部も同様だ。ロープレを繰り返し、徹底的に訓練を積んだメンバーだけが企業説明会の場に出ることを許される。そうでないと学生を魅了できないし、「心がピュアなやつ」も見つけられない。 もうひとつ、他力野氏が重視する取り組みが全社ミーティングだ。毎月一回8時間、各施設の社員全員が一同に会する。社員数が増えたため、今年から外部施設のホールを借りて集まっている。 「よくそこまでやるねと言われます。われわれは施設ビジネスなので、一日クローズすると売上に影響する。全社員が全国から集まるのでコストもかかる。でもそれを以ってしてもやる価値があります」 全社ミーティングの目的は、社員の視点を引き上げること。 「入社後、目の前の仕事に追われて方向を見失うことはよくある。その視点を引き上げて会社全体を俯瞰して見せる。会社は今こういうことに直面していて、越えなければならない山はここだと。苦戦している場合も数字は全部見せます」 その中で社員は入社時のコミットを思い出す。自分はこの会社で何に貢献しようと思ったのか、その仕事ができているのか。「結局、働き甲斐はそこに直結します。自分の存在価値を感じると長期的にがんばれる。だからその視点に戻すことを毎月やり続ける。一回は8時間でも年間(12回)で100時間近くになりますから」 2018年度、バリューマネジメントの売上は90億円を見込み、2020年は150億円を視野に入れている。事業の拡大に伴い、*従業員数が一千名を超える日も近い。 「今後も組織の基本的な方針は変わらない。その中でどのようによりロイヤリティの高い組織を維持するか。それが課題でもあり、楽しみでもありますね」