四代目 辻野 福三郎氏>町の畳屋から 業界トップ企業へ。

住まいの洋風化が進む現代において、畳が衰退するのは仕方ない… と誰もが思う斜陽産業で奮起し、 急成長を遂げている畳メーカーがある。それが、「TTNコーポレーション」。 小さな畳屋を年商65億円の業界トップ企業へと導いたのは、4代目 辻野社長の攻めの姿勢だった。

町の小さな畳屋の 後継ぎとして生まれる

野社長の生家は、伊丹の駅前商店街のはずれにあった畳屋。1階の作 業場で両親と祖母の3人が働く、店舗兼住居だった。家業を継ぐことを意識しだしたのは、小遣い稼ぎに家の手伝いをするようになった中学生のとき。「勉強が得意じゃなかったので、畳の仕事を覚えたらご飯が食べられる」という感覚。見るだけだった畳に実際に触れることで、愛着もわいた。 親の勧めで高校の途中から3年間の海外留学を体験するが、「畳屋になると決めていたので、時間ができると畳でおもしろいことができないかと構想を練っていましたね」 帰国後の就職先も決まっていたある日、父親から一本の電話があった。「会社の状況がよくないから、すぐに帰国して手伝ってほしい」。バブル崩壊をなんとか持ちこたえ、阪神・淡路大震災の特需で畳の注文が急増した後、一気に仕事がなくなったときで、父親のただならぬ緊迫感が伝わってきた。

下請け化する畳産業の 打開策を模索する日々

ぐに帰国し、家業に入って職人の見習いをスタートしたのが20歳のとき。そのころには、社員が20数名に増えていた。「技術と知識で競い合う職人の世界に飛び込み、何もわからない状態でした。周りは社長のドラ息子が帰ってきたと思っていたでしょう」 一人前の職人になるための地道な修行を続けながらも、家業の将来のために何かできないかと考えていた辻野社長。他社との差別化をはかって、畳の色や形状を変えた次世代の畳をイメージした商品づくりにも挑戦した。いまでこそ一般化しているカラー畳だが、当時はまったく売れず、誰も反応してくれなかった。 畳産業の状況はというと、直接注文を受けていたお客様との間にさまざまな業種が入るようになり、完全に下請け化してしまっていた。下請けになっても仕事はまだあったが、高品質のい草をつくる農家がどんどん潰れていく。本来の畳のよさを知らない客層に向けた、中国産などの廉価畳が主流になってしまったからだ。「このままでは、畳産業自体が存続できなくなるかもしれない」という危機感が膨らんだ。

エンジンを同時稼働して 売上げを6・5倍増に

んな25歳のある日、営業先の飲食チェーン店経営者から、「競争が激しくて休業日がないから、畳を張り替えるタイミングがない。夜中に張り替えてくれるなら仕事を出すのに」と言われ、これはビジネスチャンスになるのではと直感。そこで、職人気質が残る畳の世界に機械化を推し進め、工場を24時間稼動させて生産性を向上。さらには、夜間の張り替え作業を昼間と同じ価格にしたことで、飲食店などから続々と注文が舞い込んだ。 同時に、一般のお客様に良質な畳を紹介するBtoCのマーケットをつくるため、「三条たたみ」というブランドも立ち上げた。手頃な価格帯の商品から高級品まで自由に選べる三条たたみは、「1年間張替無料補償付き」「配送料・階段手数料・家具の移動は無料」「24時間稼働の生産体制で早朝・深夜も対応可」という業界に旋風を起こすサービスを打ち出して、全国シェア率No.1ブランドにまで成長した。 一方では、従来通りのお客様である寺社仏閣や伝統文化施設、高級旅館をはじめ、好んで畳を使用する一般のお客様も健在。各事業のエンジンを同時にフル稼働させることで売上げをぐいぐい伸ばし、わずか6年で売上げは6・5倍にまで増えた。

暮らしの洋風化に合う 和テイストのインテリア商品

人としての修行後は、配送、営業、支店展開、新規事業の立ち上げなどを経験し、31歳で社長に就任した辻野社長。「日本人の暮らしの洋風化=フローリングと畳の戦いだと思っていた時期もありました。でも、現実は圧倒的にフローリングの勝ちなんですよね」。それならばと、フローリングと共存するための次の手を考えた。 それが、フローリングにもぴったり合う、畳を利用した和テイストのインテリア商品開発。例えば、円形畳クッションの「*マカロン」は、丸いフォルムとほどよい弾力性、カラーバリエーションの豊富さが人気。座布団感覚でフローリングに置いたり、ベンチシートのうえに並べて設置することもできる。このような、畳屋の技術やアイデンティティをしっかりと伝えることができる商品づくりを推進するために、国内だけでなく、海外への販路拡大も積極的に行なっている。 また、「畳をお風呂の湯船のなかに敷きたい」「ファッションショー用にピンヒールで歩ける畳がほしい」といったユニークで難しい注文にも拒むことなく挑む。それは、長年培ってきた技術やノウハウを発揮し、さらに新たなノウハウが手に入る機会でもあるから。「畳のことなら辻野のとこに行けばなんとかなると言われるのは、とても光栄でうれしいことです」

畳のよさを広め さらなる事業拡大をめざす

TTNコーポレーションは近年、インテリアのプロデュース業も手がけている。「うちは、どこよりもたくさんの和室を見てきた会社なんです。これらの経験やデータを活かすよりほかない」。得意とするのは、日本各地の旅館それぞれのコンセプトに合わせて行う、畳を軸とした和空間づくり。海外の日本食レストランなどの和の演出に最適な、簡単に組み立てができるユニット和室も揃える。 日本発祥の畳の伝統や文化については声高に言うつもりはなく、「純粋にいいものだから使い続けられてきた畳のよさを広く知ってもらいたい」と望む辻野社長。畳のリラックス効果のある香り、気持ちいい肌触りは人の心を落ち着かせてくれる。優れた吸湿性は空気中の有害物質を吸ってくれ、家に畳の部屋が一部屋あるだけで、清浄な空気のコントロールにつながるなど、畳のもつメリットは数えきれない。 現在の社員数は450名。小さな畳屋が出発点なので、社内にはアットホームな雰囲気が残るが、工場を大きくしたことで小さな畳屋が潰れ、悪気はないのに恨まれたこともあった。だからいまは突っ走るだけでなく、各地の畳業者と提携する生産体制の整備を進めている。畳を残していくためには、同業者との共存共栄をはかっていくことも必須だから。 「畳のことを、もっとみんなに好きになってほしい」という熱い思いを胸に、辻野社長の攻めの姿勢はまだまだ続く。