近藤 薫氏>「雪ノ下」ブランドを支える 食材と味覚への徹底的なこだわり

株式会社梅見月・株式会社雪ノ下 代表取締役 近藤 薫氏
パンケーキとかき氷で知られる 「雪ノ下」のすべてのレシピを考案する近藤 薫社長。 大阪・梅田で創業した小さなカフェが、 全国各地に店舗展開するまでに成長した、その秘密とは。

お菓子づくりが好きな 子どもの頃からの夢を実現

バターパンケーキ近藤社長は大阪の交野市生まれ。小学生の頃からケーキを焼いて家族に喜んでもらうことが好きな女の子だった。高校生のときに「自分の店をもちたい」と製菓専門学校への入学を希望したが、親の反対を受けて神戸外国語大学に進学。外国語大学を選んだのは、将来の料理留学を見据えて。
大学時代は飲食店でのアルバイトに勤しみ、パティシエとして腕をふるうまでになった。卒業後は、有名洋菓子店でレシピ開発を担当。その後コーヒー専門店でコーヒーマイスターとして勤務するなど、常にパティシエとしてのブラッシュアップと開店のことが頭のなかにあった。
「32歳で自分の店を出そうと資金を貯め、ある程度場所も決めていたんですが、経営についてはわからないことが多くて二の足を踏んでいたんです」。そこで相談にのってもらったのが、当時通っていたダンススクールのオーナー。のちに、公私ともにパートナーとなる男性のアドバイスとサポートが、夢の実現を一気に加速させることとなった。

路地裏の小さなカフェが 予約のとれない人気店に

2012年7月、梅田・東通り商店街近くの人目につかない路地裏にカフェ「雪ノ下」をオープン。元スナックで、10年間借り手がなかった3階建ての狭小物件。不動産屋がまさかという顔をしたが、一人でやっていくにはちょうどいいカウンターもあって気に入った。
雪ノ下 本店1階4代表メニューとして選んだのは、関東でブームになりかかっていたパンケーキとかき氷。「ベーシックなパンケーキは関西でも人気が出ると思いました。季節メニューのかき氷と2本立てにすれば、経営が安定するだろうと考えて」。銅板でじっくり焼き上げる分厚いパンケーキや、フルーツをふんだんに使ったかき氷が人気を呼んで、瞬く間に予約の取れない人気店に。翌年3月に2店舗目を徒歩圏内に出して、ようやく利益が出るようになった。
2016年のリニューアルオープンを機に梅田本店の完全予約制はなくなったが、注文が入ってから丁寧に焼き上げるため、最低でも20分、混雑時はそれ以上かかるのに長蛇の列は途切れない。メニューに使用するのは、自分が惚れ込んだ静岡県三島の豊かな食材が中心。すべての食材の安全性と品質に徹底的にこだわり、素材がもつ本来のおいしさを最大限に生かしたメニューがお客様の心をつかみ、「雪ノ下」の名は口コミで広がっていった。

自由度の高いフランチャイズで 国内外に店舗展開

「雪ノ下」の店舗は、一部の直営店を除いてフランチャイズ方式。各店舗オーナーが、近藤社長のレシピを使用して経営するというスタイルだ。「食材にこだわる飲食店が利益を出すことは難しいと感じた私は、店舗をショールームと考え、気に入ってくれた人にシステム込みの店舗ごと売るという方法をとったんです」 雪ノ下 本店3階
フランチャイズ店のロイヤリティは売上げの5%、商品開発費がかからず、設備投資も不要。丁寧なレシピがあるので作業はアルバイトに任せられる。店舗デザインも雪ノ下のロゴを使用するだけでOKという自由度の高いものだが、手づくりの味わいが他店との差別化の要なので、調理は研修を受けたスタッフが行わなくてはならない。本部指定の生産者から直接食材を仕入れて価格を抑制するなどの努力も必要である。
一時は20店舗まで広がったフランチャイズ店だったが、「儲かるに違いないという考えだけでフランチャイズ店になった場合、遅かれ早かれ自分たちの都合に合わせて売上げの低いメニューを削減していきます。売上げがよくなる季節になってもメニューの復活はせず、結局、全体の売上げが減少して経営が悪化するところが多かった」と、フランチャイズ店の淘汰を経験した。
幾度となく逆境を乗り越えた「雪ノ下」は現在、梅田本店、京都本店、府中店、横浜青葉台店、銀座店、池袋店の6店舗を展開。新たに香港への出店も予定している。

全国から取り寄せる 厳選食材でレシピ開発を行う

フレンチトースト近藤社長がいま家族と暮らしているのは、静岡県三島。そこで、全国から厳選した食材を取り寄せ、素材の味を生かすために余計なものは加えない「引き算の味付け」でレシピ開発を行っている。「小さな頃から食事のたびに、こうしたらもっとおいしくなるだろうなと考えていました。学生になると、自分が一番おいしいと感じる味に近づける調理を行うようになりました」。だから、自分の味覚には絶対的な自信をもっている。
パンケーキだけでも、たまごは三重県多気郡コケコッコー共和国の平飼い有精卵、水は鹿児島県シラス台地にある高牧の森の水。牛乳は静岡県大三伊豆牧場の低温殺菌牛乳、小麦は最低限の農薬で丁寧に育てられた北海道産小麦と、こだわりは半端ない。
「基本的には業界新聞で食材をチェックして産地を探します。調べるうちに食材に対する知識も深まってきて、良さそうだと思うものに目星をつけて取り寄せる。シーズンが合えば全国どこへでも足を運びます」バターパンケーキ
生産者からの直接購入なので大量の場合が多く、送料も含めると月に10〜20万円の費用がかかるが、目新しいもの、おいしそうだと思うものは購入して試食と試作を繰り返す。手に入れた食材をどう表現するかの手段としてパンケーキやかき氷があるから、食材が変わればメニューの内容も変わるとのこと。「取り寄せて良かったもの、失敗したものすべてがわが家の食事になります」と笑う近藤社長のレパートリーは、スイーツだけでなくイタリアンや和食まで広がっている。

お客様との会話がはずむ 「雪ノ下」を目指して

玉子サンド最近は梅田などで料理教室を開き、自らレシピを公開している近藤社長。「おいしいものを伝えるというよりは、そこで生まれる時間を大切にしています。知らない者同士がおいしいものを一緒につくり、楽しく食べる時間をつくりたい」
近藤 薫雪ノ下各店舗に対してはマニュアルで縛らない代わりに、お客様と積極的に話しをすることを望んでいる。メニューや全国各地の食材が会話のきっかけとなって話がはずみ、お客様同士のコミュニケーションにもつながっていってほしい。そんな場所になりたいと思ってはじめたカフェが、「雪ノ下」の出発点でもある梅田本店だったから。
「お客様との垣根がなく、究極においしい食材や楽しい時間を一緒に楽しめる店舗を増やすためには、まだまだ課題がありますが、雪ノ下を心の通じる日本ブランドにしていきたい」と目を輝かせる近藤社長。経営者・,パティシエ・シェフ・料理研究家としての多彩な手腕に今後も期待したい。